大阪産業大学からのお知らせ
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― 高効率のシリコン太陽電池開発を目指して ―
本研究成果は2024年6月27日(現地時間)に英国の物理学会誌「Journal of Physics D: Applied Physics」にオンライン公開されました。
大阪産業大学の草場光博 教授、卒業生 平井健太さん、田中朋世さん、堤大輔さん、東海大学/京都大学の橋田昌樹 教授、核融合科学研究所の坂上仁志 名誉教授らの研究グループが、ナノ秒紫外レーザーによりシリコン太陽電池表面に20 nm程度の先端を有するナノドット構造形成に成功しました。特にレーザーを融解閾値以下のフルエンス1)に調整し照射することで、回折限界2)よりもはるかに小さい大きさの構造(レーザー波長の1/12以下)を均一かつ高密度に材料表面に形成するレーザー超微細加工技術を開発しました。ナノドット構造をもつシリコン太陽電池は、①反射率を5%程度に低減、②構造の先端に圧縮応力を付与、③バンドギャップを高く制御できることから、量子閉じ込め効果によりシリコン太陽電池の高効率化を加速する技術として期待されます。本成果は、表面構造をもつシリコン太陽電池にレーザー超微細加工することで、これまで未解明とされてきたナノ微細構造形成メカニズムにおいて新しい知見を示しており、更に小さい構造を様々な固体材料に付与できる可能性を秘めています。本技術は、これまで実現が不可能とされてきた数十nmの加工サイズをレーザーにより実現する新しい技術であり、様々な固体に短時間に大面積に形成できることから最先端ものづくり技術としてSociety 5.0実現を最大化する強力なツールになると期待されます。
材料の表面にナノ微細構造を形成させることで撥水性、抗菌性や無反射性など材料に機能性を付与させることができます。再生可能エネルギーとして広く使用されているシリコン太陽電池では、現在、シリコン表面に1~10 μmの大きさをもつピラミッド構造を形成させることで、太陽光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率がおよそ20%となっています。変換効率をさらに向上させるためには、太陽光スペクトルの最大強度となる500 nm付近での太陽光をさらに太陽電池に吸収させるために数100 nm以下の大きさのナノ微細構造をピラミッド構造表面に形成させる必要があり、モスアイ構造、ポーラス構造やレーザー誘起周期構造(LIPSS)が有望であると期待されています。特にシリコン太陽電池表面上でのLIPSSは、他の方法と比較して時間の節約や結晶性の保持ができる利点があります。そこで我々は融解閾値フルエンスが0.5 J/cm2以下のXeClエキシマレーザーパルスを用いてシリコン太陽電池のピラミッド構造表面にLIPSSを形成させることに成功し、反射率の減少はLIPSSの間隔と強く関係すること、LIPSSが形成された後もシリコン太陽電池の結晶性が保持されていることを報告してきました。
反射率をさらに低減させるためには、屈折率が上部から下部まで連続的に変化する三角形のナノドット構造(微小突起構造)を作製する必要があります。今までにナノドット構造の形成に関する研究はいくつかありますが、シリコン太陽電池の反射率低減に最適なナノドット構造の形状、大きさおよび密度ではありませんでした。
図1 ナノドット構造形成の概略図
本研究では、発振波長248 nm、パルス幅20 nsのKrFエキシマレーザーを用いてシリコン太陽電池表面上に図1のような高密度に三角形ナノドット構造を形成することに成功しました。シリコン太陽電池の融解閾値0.47 J/cm2以下のレーザーフルエンスでKrFエキシマレーザーを照射したところ、図1のようにナノドット構造は、レーザーがシリコン太陽電池のピラミッド構造表面に対してS偏光として照射される面(S偏光面)のみに形成されることを発見しました。形成されたナノドット構造の大きさは先端が約20 nmである三角形のナノドット構造であり、この構造のサイズはレーザーの回折限界よりも小さいことがわかりました。ナノドット構造の密度はレーザー波長に関係しており、レーザー波長の2乗に反比例しており、短波長レーザー照射が高密度化に有効であることを見出しました。ピラミッド構造のS偏光面のみにナノドット構造が形成されたシリコン太陽電池の500 nmでの反射率は約5%を達成しました。顕微ラマン分光を用いてシリコン太陽電池の結晶性を評価したところ、ナノドット構造を形成させることによって表面に圧縮応力が発生していることがわかりました。さらにバンドギャップを評価したところ、シリコン太陽電池のバンドギャップエネルギーがより高くなることがわかりました。ナノドット構造は融解閾値の半分程度の弱いレーザーフルエンスで照射しても形成されることから、高効率かつ大面積加工への期待がされます。
以上の成果は、レーザー誘起ナノドット構造形成によってシリコン太陽電池の反射率の低減およびより高いバンドギャップエネルギーはシリコン太陽電池の分光感度が短波長側にシフトすることにつながることから、シリコン太陽電池の高効率化に期待されます。また、今まで融解閾値以下のレーザーフルエンスでの照射については、未開拓な領域であり、この成果はナノ微細構造の形成メカニズムの解明に大きく進展させる足掛かりになるものであります。
1)レーザーフルエンス:1パルス、単位面積あたりのレーザーのエネルギー
2)回折限界:レーザー光を集光した場合、集光径dはレーザー波長λと集光するレンズの焦点距離と開口径との比のFナンバーで決まり、d=1.27λFで表され、理想的な光学系であっても回折によりレーザー波長以下の径にはならない。
タイトル:High-density nanodot structures on silicon solar cell surfaces irradiated by ultraviolet laser pulses below the melting threshold fluence(紫外レーザーパルスを融解閾値以下のレーザーフルエンスで照射されたシリコン太陽電池表面上の高密度ナノドット構造)
著者:K. Hirai, T. Tanaka, D. Tsutsumi, M. Hashida, H. Sakagami, and M. Kusaba
掲載誌:J. Phys. D: Appl. Phys. 57 (2024) 385101
https://doi.org/10.1088/1361-6463/ad58ec
本研究の一部は、JSPS科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号JP22K04766)、H30-R9年度文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)基礎基盤研究「先端ビームによる微細構造物形成過程解明のためのオペランド計測」JPMXS0118070187、天田財団一般研究開発助成(課題番号AF-2023225-B3、AF-2022233-B3)および大阪大学接合科学研究所「接合科学共同利用・共同研究拠点」共同研究員制度の支援を受けて行った。
草場光博
大阪産業大学工学部電気電子情報工学科・教授
kusaba@eic.osaka-sandai.ac.jp