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経営学部 商学科

神戸酒心館を訪問し、「〈経営〉の根源的意味としての〈家政〉:酒心館を訪問して」というレポートをまとめました

2020年1月24日 経営学部 商学科

【「〈経営〉の根源的意味としての〈家政〉」:神戸・酒心館を訪問して】

皆さん、こんにちは。経営学部商学科中原ゼミ生一同です。4年生の私たちは、卒業を控え、〈経営〉とは何かを今一度考え直すために、神戸の地を訪れました。なぜ神戸なのかについては後ほど説明いたしますが、ここではまずこのプロジェクトを開始するに至った経緯について説明したいと思います。

これまで私たちは、経営学部の4年間で〈経営〉について学んできました。しかしながら、〈経営〉という考え方がいったいどこから始まったのか、そのことをしっかり学んでいないことに気づきました。そもそも〈経営〉という概念は、いつ、どこで使われ始めたのか。そしてこの概念ができるまでは、どのような概念として〈経営〉が実践され、その後説明されてきたのか。このような問題意識が卒業を控えつつある4年生の時に浮かんできたのです。

もともと〈経営〉とは、ドイツ語のBetrieb(ベトリープ)という言葉に起源があることが知られています。ドイツの社会学者・政治学者であるマックス・ウェーバーは、このBetriebという言葉が資本主義以前には〈運営〉という意味で使われていたと言っており、その後資本主義が成立してから〈経営〉という意味で用いられるようになったと言っています。つまり、〈経営〉は企業を考察対象とするのに対して、それ以前の〈運営〉は教会・行政機関・学校などといった組織体を考察対象とするということです。

私たちは、このことからBetriebという言葉が〈経営〉という意味を持つようになった以前から、〈経営〉=〈運営〉の実践が行われていたことを知りました。もともと〈経営〉と呼ばれていなくても、〈経営〉に近い実践がすでに行われていた、ということになります。実は、この問題は古くは古代ギリシアに遡ることができます。古代ギリシアのアリストテレスは、〈家〉(oikos:オイコス)において〈法〉(nomos:ノモス)を実践することを〈家政〉(oikonomia:オイコノミア)と呼んでいました。このオイコノミアは、経済学・家政学を意味する「エコノミクス(economics)」の語源にあたる言葉ですが、それは経済学・家政学だけではなく経営学の語源としても位置づけられるようです。

それでは、〈家政〉にはどのような実践があるのか。私たちはその実践を実際に見てみたいと思うようになりました。しかしながら、それは現代において簡単なことではありません。なぜなら、現代では〈家政〉は〈経営〉という言葉で置き換えられ、企業の〈経営〉ばかりが行われているからです。私たちが4年間学んできたのも、それと同じことです。私たちの身の回りには、〈経営〉によって生まれたものはあっても、〈家政〉から生まれたものは見つかりにくい。それがどのような製品・サービスとして見ることができるのか。そこで私たちは実際に〈家政〉から生まれた日本酒について調べていき、それがどのような実践であるのかを実際に目で見て確認してみたいと考えたのです。

私たちが選んだ神戸酒心館は、「福寿」を代表とした名酒を生産する日本で数少ない酒蔵です。「宝暦元年(1751年)創業」という歴史にも分かるように、長い年月をかけてその独自の製法と味を守り続け、時代の変化(効率化)に抗うように時間と手間暇をかけて大事に日本酒を生産しています。日本酒は、良質な原料、蔵人の感性、そして膨大な手間と時間が融合して初めて食卓に並びます。それはまさに企業の効率的な生産方法によってなされる〈経営〉とは違い、長い年月の中で職人技によって育まれた〈家政〉ならではの造物と言えるものです。

創業宝暦元年 福寿

当時の歴史と灘五郷

福寿の大きな樽

酒蔵見学の始めに、酒心館の歴史をビデオで学びました。ガイド役の方に、酒心館の長い歴史と製法などについてご説明いただいた後、実際にどれくらいの歴史があるのかなどをビデオから学びました。古代ギリシアと先ほど言いましたが、実は日本酒の歴史は縄文時代に遡ることができるとのことで、その歴史はワインに匹敵するほどのものだったということを知り、とても驚きました。ワインもそうですが、日本酒も「政(まつりごと)」の時に好んで飲まれる神聖な飲み物でした。現在でも、その神聖さは受け継がれ、これまでにフランス共和国のシラク大統領夫人や高円宮殿下・同妃殿下がご来館されていたようです。 

酒心館の歴史をビデオで学ぶ

フランス共和国大統領ご来館

 

高円宮殿下・同妃殿下ご来館

ビデオ上映後に、実際に酒造りが行われている現場を見学しました。工場の外側からの見学でしたが、その前には「杉玉」という球体がぶら下がっていました。「これは何をするものかわかりますか?」というガイドさんの声に一同困惑でしたが、これはその名の通りスギを集めて作られたもので、どんどん茶色に変色していく様子を見ることによって日本酒の熟成具合を周囲に知らせる役割があるとのことでした。そのため、酒造りが行われている場所にはこの杉玉が吊るされており、それを見て、お酒を買いに来られる人やお酒の熟成具合を知る人などがおられるとのことでした。この杉玉の前には、現在酒心館で作られている日本酒が綺麗に陳列してあり、どれも高級かつ品格のある日本酒であることが伺い知れました。

茶色がかった杉玉

高級感のある日本酒

次に精米と仕込みについて学びました。精米には、いくつかの種類があり、その精米の度合に応じて日本酒の種類が決まっていることを学びました。より深く削ることによって爽やかな味わいになることから、最も精米された米で作られた日本酒を「純米大吟醸」、次に「純米吟醸」という風に呼ぶとのことです。コンビニやスーパーなどで売られている日本酒にこのような違いがあることは記載されているラベルから伺い知れましたが、実際に製造段階でこれらの精米の違いがあることは知りませんでしたので、勉強になりました。仕込みの現場も、とにかく清潔に保たれていることが分かりました。実際に日本酒が作られている様子はわかりませんでしたが、その雰囲気を知ることができました。

精米の度合い 

 

仕込みの現場

 

仕込みの現場の写真

 

蔵人の方々

 

最後に、「さかばやし」にて昼食をいただきました。日本酒についてしっかり学んだせいか、お腹も空きました。ここで日本酒をいただくことはありませんでしたが(残念!)、「粕汁」が並び、他の料理といっしょに美味しくいただきました。記念撮影も忘れません。   

さかばやし

料理が並べられた室内

全員で記念撮影

料理の写真

最後に全員で記念撮影をしました。〈経営〉だけではなく、長い時間で培われた〈家政〉の歴史を知ることで改めて〈経営〉とは何かを考えることができそうです。これから社会人になる私たちですが、〈経営〉の現場で活躍するためにも、古来より受け継がれた伝統を忘れずに働いていきたいと思います。もう一度訪れたい思い出の場所になりそうです。神戸酒心館さま、ありがとうございました。  

集合写真

 

 

中原ゼミ4年生(3期生)

谷口雄飛・福島和明・田村拓実・澤田寿大・武田太一・松本俊明・松原義樹・小林紗弓・八木司・風間玲実・ヤンユジン・中原翔